Kazui Press
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日本人とルール

「ルールを作りたい日本人」、「ルールで安心したい日本人」、
「ルールに縛られる日本人」


◎今回の日経デザイン誌の件をきっかけに、なぜこのような事が起こり、それに対して理解がなかった事を考えました。
私に全ての事が理解できているかどうかはわかりませんが、欧文で仕事をしていたりすると若いデザイナーや学生にしばしば意見を求められる事があります。
この国にはちょっと冷静に判断すれば分かりそうな「変な噂」や「間違った考えが」があたかも海外ではルールとして存在しているように言われています。それを信じ、またその事を他の人に広めています。
ラテンアルファベットが母国語ではないという、ハンデはありますがそれより、ルールを作り、そのルール通りすることで安心したい日本人がいます。

◎今回のギャラモンの事もありますが、良く言われるおかしな例として「フーツラはナチスと関係がある」とか、「ボドニーはイギリスではロゴとして使えない」とか「イギリスではほとんどがバスカービルで組まれている」だとかが、まことしやかに語られています。
この書体はドイツの○○と言うデザイナーが作ったからではなく、そのドイツのデザイナーがどの目的で作ったか、一般の本文用なのか、ドイツを感じさせたいのか、あるいは伝統的な雰囲気の書体かによって、使用方法を決めるべきです。

金属活字では傑作と言われて嘉瑞工房も活字を揃えた Bauer Bodoniは、イタリア人ボドニがつくった活字を参考に、ドイツの活字会社のドイツ人書体デザイナーが作ったもの。現在スペインで鋳込まれ世界中に販売しています。

Centaurは、イタリア人が約500年前につくった活字を参考に、アメリカ人書体デザイナーが作ったもの。現在私も所属しているイギリスの RSA (王立芸術協会)もこの書体を使っています。

◎先日、世界的なタイプデザイナーのマシュー・カーター氏と個人的にかなり長い時間お話をしました。
改めて、フーツラの話、今回のガラモンの話をしたら、あきれかえった笑顔と自分の体験を話してくれました。
数年前に日本の美術大学で講演をしたとき、学生から、「タイプデザインには6つのルールがあるそうですが、そのルールを教えて欲しい」との質問があったそうです。
カーター氏は「タイプデザインにはそんなルールはない!そんなルールがあったら、どの書体もみんな同じになってしまう!」、「日本人はルールが好きだ!」と苦笑していました。

◎もう一つ、「ルールにすがる日本人」の対極に「本当に大切なルールを無視する日本人」がいます。
ローマン体を変形させて、イタリック体や、スモールキャップを作る。
垂直になっている「"」、いわゆる「dumb quotes(日本語にするとマヌケ引用符)」を使う。
並び線を勝手に変える。
やたらと合字を作る。等々。

【詳しくは「欧文書体 その背景と使い方」を参考に】

◎読みやすく美しく内容にあった組版をすることがタイポグラフィの目的であれば、数百年にわたる年月で磨き上げられたルールと、身勝手ではない自由な発想のデザインとは相反する物ではありません。タイポグラフィの研究は本だけで得た「知識」のひけらかしではありません。
外国の街にでて実際に使われている例や、直接海外の人に聞いて見ると、「暮らしの中のタイポグラフィの知識」を得ることができるかもしれません。

【お奨めのブログ http://doitunikki.exblog.jp/

だってタイポグラフィは難しい学問ではありませんよね。
書体の名前なんか知らない人々の暮らしの中で、読みやすく内容が理解しやすい書物や、雰囲気の伝わる看板、気品や思いやりの伝わるカードやレターヘッドが使われているのだから。
ただ、その目的の実現の為に、嘉瑞工房では1行の欧文をどのように並べるかを真剣に取り組んでいます。


有限会社嘉瑞工房
高岡昌生
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